『疥癬(かいせん)』の症状、原因、治療法

疥癬とは

  • 疥癬(かいせん)とは、ダニの一種である「ヒゼンダニ(疥癬虫)」が人の皮膚に寄生して起こる皮膚感染症です。
  • 皮膚のもっとも表面の角質層で体長約0.2~0.4㎜のヒゼンダニが増殖することにより、ひどいかゆみ症状が出ます。
  • 接触感染によって人から人にうつる病気です。
  • 疥癬には、「通常疥癬」と非常に感染力の強い「角化型疥癬(かくかがたかいせん)」の2つのタイプが存在します。
  • 通常疥癬と角化型疥癬とでは、症状の程度や感染力が違うため、区別して治療や感染対策を行う必要があります。

通常疥癬

  • 十匹程度が寄生して発生する疥癬です。ヒゼンダニ(疥癬虫)がいる皮膚や衣類、寝具などに濃厚接触することで感染します。またヒゼンダニ(疥癬虫)がいる寝具や衣類の共有で感染します。
  • 寮などの集団生活で感染するケースも見受けられますが、近年では病院や高齢者施設などでの集団感染がほとんどです。

角化型疥癬

  • 100~200万匹の非常に多数のヒゼンダニが寄生して発生します。感染力が非常に高いため、角化型疥癬の患者は個室での隔離が必要です。特に免疫力の弱い人は通常疥癬から角化型疥癬に移行しやすいといわれています。また、通常疥癬と知らずステロイド外用剤などを長期に使用していると、角化型疥癬に移行します。「痂疲型疥癬(かひがたかいせん)」または「ノルウェー疥癬」とも呼ばれます。

疥癬の症状

  • 疥癬の症状は通常疥癬と角化型疥癬とで異なります。しかし、いずれのタイプでもヒゼンダニに感染してすぐは自覚症状がなく、感染後1カ月ほどしないとかゆみなどの自覚症状はでないのが普通です。
  • 家族間や病院、高齢者施設などで疥癬患者と濃厚接触する人に感染しやすいため、同居している家族や施設内で同じような症状が出ている人がいるかどうか、よくチェックする必要があります。

通常疥癬の症状

  • 主な症状は強いかゆみと体幹や四肢に現れる赤いあわ粒大の皮疹(丘疹:きゅうしん)です。頭部以外の全身に発生し、特に指の間や陰部、太ももの内側など皮膚の柔らかい部分に集中的に発生することもあります。また、夜間にかゆみ症状が増すのが特徴です。このかゆみは、ヒゼンダニが排出する糞や卵などに対するアレルギー反応によるものと考えられています。陰嚢や陰茎などにしこり(結節:けっせつ)ができたり、指の間に疥癬トンネルといってヒゼンダニのメスが卵を産むために角質層に潜り込んでできる線状の痕ができたりすることもあります。この疥癬トンネルは疥癬に特徴的ですが、専門家でないと見つけることはできません。

角化型疥癬の症状

  • 皮膚の角質層が異常に増殖し、灰色や黄白色の垢がたくさん付着します。激しいかゆみを伴うこともありますが、ほとんどかゆみ症状がないケースもあります。ヒゼンダニは爪にも寄生するため、爪は分厚くなって黄色く濁った色に変化します。角化型疥癬は稀ですが、もし角化型疥癬患者がいる場合、疥癬の拡大を防ぐために、その患者はまわりの人と隔離しなけばなりません。

疥癬に似た症状の疾患

疥癬は一見しただけではほかの皮膚疾患と区別が困難です。そのため、疥癬の疑いがある場合、皮膚科専門医を受診して、直接鏡検といった顕微鏡検査で、皮膚からヒゼンダニ(疥癬虫)の虫体や卵、糞を見つける必要があります。ご自身で判断せず皮膚科専門医を受診しましょう。

通常疥癬に似た症状

  • 皮膚瘙痒症
    明らかな炎症や皮疹がないのに、身体の広い範囲、または身体の一部にかゆみが現れます。内科的な病気が関わっている場合もあります。
  • 虫刺症
    いわゆる「虫刺され」です。蚊、アブ、ダニなどに刺されて炎症が起こります。虫に刺されてすぐにはれてかゆくなる「即時型反応」と、1~2日経ってから症状が現れる「遅延型反応」があります。症状の程度は毒性の強さや体質によってさまざまです。

角化型疥癬に似た症状

  • 乾皮症
    皮膚が乾燥してカサカサした状態のことを指します。乾燥によって皮膚がごわついて厚くなったり、その一部がフケのようにポロポロと剥がれ落ちたり(落屑:らくせつ)、亀裂ができたりします。しかし乾皮症を疥癬と間違えることは普通ありません。
  • 爪白癬
    皮膚糸状菌の一種である「白癬菌」というカビを原因とする皮膚感染症です。一般的に「爪水虫(つめみずむし)」と呼ばれます。白癬菌が寄生した爪は、白色~黄色に濁ったり、厚くなってぼろぼろと欠けたり、変形したりします。高齢者には爪白癬は多いですが、爪疥癬は非常に稀な病型です。

疥癬の原因

  • 疥癬はヒゼンダニが人の皮膚の角質層に寄生して起こります。
  • ヒゼンダニは角質層より内部に侵入することはなく、皮膚の表面を自由に移動し、交尾と産卵を繰り返します。そのため、ヒゼンダニに感染した人と濃厚接触することでほかの人にもうつります。
  • 感染経路のほとんどは直接的な皮膚の触れ合いですが、衣類や共有のタオルや寝具を介して感染することも多いです。
  • 特に角化型疥癬の場合は寄生しているヒゼンダニの数が桁違いに多いため、感染力が非常に強く、短時間の触れ合いや寝具・タオルなどを介して容易に感染します。

疥癬の治療法

  • 「夜間にかゆみが強くなって眠れない」「同じような症状が家族など身近な人にも出ている」など、つらいかゆみや「疥癬かな?」と思うような症状があれば医療機関を受診してください。
  • 医療機関で疥癬と診断されたらヒゼンダニを殺す作用のある内服薬や外用剤で治療します。ステロイド外用剤を使用するとヒゼンダニに対する免疫反応が低下し症状が悪化してしまうため、使用は避けてください。

疥癬の予防法

  • 疥癬と診断されたら治療をしながら感染予防も行いましょう。
  • 感染予防は、感染力の弱い通常疥癬と感染力の高い角化型疥癬とで異なりますが、感染者自身はまわりにうつさないよう、家族など周囲の人は感染しないように行動することが大切です。

通常疥癬の予防法

  • 通常疥癬のほとんどは接触でうつるため、疥癬に感染した人との接触は避けるか、接触した場合はこまめに手洗いをするようにしましょう。
  • 同じベッドや隣に布団を並べて寝るのは避けてください。
  • 入浴時のバスマットやタオルなどの共用は避けましょう。

角化型疥癬の予防法

  • 角化型疥癬の場合は感染力が高いため、疥癬に感染した人はできるだけ個室で生活してください。
  • 感染した人に接する時は、手袋やガウンを身につけてください。
  • 剥がれ落ちた皮膚片の中にたくさんのヒゼンダニが潜んでいます。感染した人が使用した衣服や下着、シーツ類の取り扱いには注意し、個別に洗濯してください。ヒゼンダニは50℃以上のお湯に10分以上つけるか、乾燥機で20~30分処理することで死滅させることができます。部屋の掃除もこまめに行います。
  • その他にも、洋式トイレの便座を介して感染してしまうこともあります。疥癬に感染した人と同じトイレを使用する場合は、時間を空けてから使用するようにすると感染のリスクを下げることができます。

監修

帝京大学医学部皮膚科 名誉教授

渡辺晋一先生

1952年生まれ、山梨県出身。アトピー性皮膚炎治療・皮膚真菌症研究のスペシャリスト。その他湿疹・皮膚炎群や感染症、膠原病、良性・悪性腫瘍などにも詳しい。東京大学医学部卒業後、同大皮膚科医局長などを務め、85年より米国ハーバード大マサチューセッツ総合病院皮膚科へ留学。98年、帝京大学医学部皮膚科主任教授。2017年、帝京大学名誉教授。帝京大学医真菌研究センター特任教授。2019年、『学会では教えてくれない アトピー性皮膚炎の正しい治療法(日本医事新報社)』、2022年『間違いだらけのアトピー性皮膚炎診療(文光社)』を執筆。

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