虫刺されによる皮膚トラブル!市販薬の選び方・使い方

暑い季節の悩みと言えば「虫刺され」。たかが虫刺されと思っていても、放置していると無意識に掻いてしまい、掻けば掻くほどかゆくなるといった悪循環に陥ってしまいます。さらに、虫刺されを掻き壊してしまうと、痕が残ってしまう場合もあります。そんな虫刺されを早く治すには、掻いてしまう前に適切なケアをすることが大切です。そんな時に活用したいのが、虫刺されに使える市販薬です。しかし、いざ薬を買いに薬局やドラッグストアに行くと、たくさんの種類があって、どれを選べばよいのか迷ってしまいます。今回は、虫の種類や虫刺されの症状に応じた市販薬の選び方や、正しい市販薬の使い方について解説します。

市販薬を選ぶポイント

薬局やドラッグストアの「虫刺されコーナー」に行くと、虫刺され用の塗り薬がたくさん並んでいます。種類が多すぎて、どこが違うのか、どの種類が自分の症状に合っているのかなど、迷う方も多いのではないでしょうか。そんな時は、パッケージに記載されている薬の主成分を見ましょう。虫刺され用の塗り薬は、主に「抗ヒスタミン成分」を含むものと、「ステロイド成分」を含むものの2つに大別されます。

虫刺されの症状に対する有効成分は主に2種類

  • 抗ヒスタミン成分が配合された塗り薬
    虫刺されによるかゆみ症状を鎮める作用がある「抗ヒスタミン成分」が主剤として配合されているタイプの薬です。虫に刺されると、注入された毒液や唾液成分に対するアレルギー反応が起き、かゆみ物質である「ヒスタミン」などが大量に放出されてかゆみが現れます。

    抗ヒスタミン成分は、かゆみの元であるヒスタミンの働きをブロックすることによってアレルギー反応を抑え、かゆみを鎮める成分です。パッケージに記載される成分名としては、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミンなどがあります。

  • ステロイド成分が配合された塗り薬「ステロイド外用剤」
    虫刺されによって起きる炎症反応を抑える「ステロイド成分」が配合されているタイプの薬を、一般的に「ステロイド外用剤」と呼びます。虫に刺されると、はじめにアレルギー反応が起きます。このアレルギー反応が強いと、患部に炎症が広がり、強いかゆみや腫れ、赤み、痛み、水ぶくれなどの症状が出ます。

    ステロイド外用剤は、「我慢できないかゆみ」や、「虫刺されによる赤み、痛み、水ぶくれ」などの症状が出た時にも使用できます。パッケージに記載される成分名としては、フルオシノロンアセトニド、ベタメタゾン、プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステルなどがあります。

    OTC医薬品のステロイド外用剤の中には、抗生物質を含んでいるものもあります。抗生物質の入ったステロイド外用剤は、すでに掻き壊してしまい、細菌感染の心配がある虫刺されにも使用することができます。

かゆい虫刺されにはステロイド外用剤を選びましょう

最近では、虫刺され用の市販薬として、かゆみを鎮める「抗ヒスタミン成分」と、炎症を抑える「ステロイド成分」の両方を配合しているものも登場しはじめました。しかし、一般的には「抗ヒスタミン成分」と「ステロイド成分」のいずれか一つを主剤として配合しているものがほとんどです。虫刺されに対して、「抗ヒスタミン成分」を主剤とする薬か、あるいはステロイド外用剤のどちらかを選択する場合は、どちらを選べば良いのでしょうか。

虫刺されによって、患部に我慢できないようなかゆみや痛み、腫れがある時は、炎症が起きているサインです。このような症状がある場合は、ステロイド外用剤を使って、炎症を抑える治療が必要です。

虫刺されは、一度掻いてしまうと、それが刺激になってますますかゆくなるといった悪循環に陥ってしまい、治りが悪くなります。虫刺されを早くきれいに治すためには、掻いてしまう前に、ステロイド外用剤を塗って治療するのがポイントです。日常的によくある虫刺されであれば、症状に合った市販の塗り薬を正しく使うことで、たいてい治ります。

薬の形状や使用感もさまざま

虫刺され用の市販薬には、チューブに入った軟膏タイプ、液体のローションタイプなど、さまざまな剤形のものが販売されています。他にも、清涼感を持つ成分や局所麻酔を配合するなどして、かゆみを感じにくいように工夫しているものもあります。最近では、掻くのを我慢するのが難しい子ども向けにシール型の貼り薬も市販されています。使用する人の年齢、患部の場所、使用感の好みに合った薬を選びましょう。

どんな虫に刺された?症状別の使い分け

一口に虫刺されといっても、どんな虫に刺されたかによって、症状の程度が違います。日常的に遭遇する可能性のある虫と、刺された時の対処法を紹介します。

日常生活の中で最も身近な虫刺されと言えば、蚊による虫刺されです。刺された直後からかゆみを感じ、赤色に盛り上がるといった症状が出ますが、数時間後には痕を残さず自然に治ります。通常は、数日で症状が治まりますが、症状の出方には個人差が大きく、患部に腫れや水ぶくれができたり、炎症が数日続いたりすることもあります。そのような場合は、早めにステロイド外用剤を塗って、しっかり炎症を抑えましょう。

ハチ

刺された直後から、ハチ毒の刺激による激しい痛みと腫れが出ます。ステロイド外用剤を塗って、すみやかに炎症を抑えましょう。ただし、これまでにハチに刺された経験がある人が、再び刺された時は、強いアレルギー反応やショック症状が現れることがあります。ハチに刺された後、気分が悪くなった場合はただちに受診が必要です。

ブヨ(ブユ・ブト)

ブユによる虫刺され

ブユ


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刺されてから半日~1日後に我慢できないようなかゆみが現れ、患部は赤く腫れあがります。治療をしないと、痕にしこりが残ることもあります。ステロイド外用剤を塗って、すみやかに炎症を抑えましょう。

ダニ(イエダニ)

イエダニ


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腹部や太もも、腋の下、二の腕など、衣服に隠れた部分を中心に、強いかゆみのある赤いしこりがたくさんでき、しつこいかゆみが数日~1週間以上続きます。強い炎症を伴うことが多いので、ステロイド外用剤を塗ってすみやかに炎症を抑えましょう。

毛虫

チャドクガ(毛虫)による虫刺され


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毒毛に触れると、毒の成分によって激しい痛みとかゆみを伴う赤いブツブツができます。患部を掻くと、皮膚に刺さった毒毛が周囲に広がり、新たにブツブツができます。患部には激しい炎症が起きるので、ステロイド外用剤による治療が必要です。

ムカデ

ムカデに噛まれると、毒液が注入され、急激な痛みとしびれが生じます。患部は赤く腫れあがり、熱を持ちます。強いアレルギー症状が出る可能性があるので、体調の変化に注意し、異変を感じた場合は、ただちに受診が必要です。症状が比較的軽い場合は、ステロイド外用剤を塗って治療しますが、腕や脚などが大きく腫れるなどの症状があるケースでは、医療機関での内服治療が必要になることがあります。

クモ

カバキコマチグモやセアカゴケグモなどの有毒なクモに刺されると、毒液の刺激によって痛みや赤い腫れが現れます。症状は個人差があり、数日で軽快する場合が多いですが、吐き気や頭痛などの神経症状が出る場合もあります。噛まれたところに症状が出た時は、ステロイド外用剤を塗って治療します。ただし、神経症状が現れた時は、ただちに受診が必要です。

ノミ

ペットに寄生するネコノミが人を刺すことがあり、刺されてから1~2日後に強いかゆみと赤い湿疹が現れ、症状がひどいと水ぶくれができることがあります。水ぶくれができた時は、適切な治療をしないと二次感染を起こしたり、痕が残ったりします。二次感染を防ぐために、抗生物質の入ったステロイド外用剤を塗って治療しましょう。広範囲に水ぶくれができた時や、痛みが強い時は医師に相談しましょう。

ステロイド外用剤のランクと選び方

ステロイド外用剤は、抗炎症作用の強さによって5つのランク(作用が強い順に、ストロンゲスト<医療用>、ベリーストロング<医療用>、ストロング、マイルド、ウィーク)があり、市販の医薬品としては、上位ランクの2つを除いた、ストロング、マイルド、ウィークの3つのランクのものを購入することができます。

市販のステロイド外用剤を使って、セルフケアする場合は、使用する人の年齢に応じてランクを選びます。大人であれば、充分な効果のあるストロングランクのステロイド外用剤を使って虫刺されを治しましょう。一方、幼児や赤ちゃんの場合は、皮膚が薄いために、ステロイド成分の作用が強く出ます。そのため幼児にはマイルド、赤ちゃんにはウィークといった作用がおだやかなものを選ぶと良いでしょう。

ステロイドの正しい使い方「ステップダウン療法」

ステップダウン療法とは、はじめに充分な効果のあるステロイド外用剤を使って短期間で炎症を抑え、症状がよくなってきたら、徐々に減薬する方法のことです。現在、医療現場では、ステロイド外用剤を効率よく安全に使うための手法として、このステップダウン療法が主流になっています。

虫刺されの症状に対しても、「かゆいな」と感じたら早めに充分な強さのステロイド外用剤を塗ってすみやかに炎症を抑えることが肝心です。弱いランクのステロイド外用剤を使ったり、ごく少量を塗って治そうとしたりする人がいますが、効果や量が足りないまま使い続けても効果が得られず、むしろ掻き壊しによって症状を悪化させてしまいます。症状が落ち着くまでは、充分な強さのステロイド外用剤を適量塗布し、短期間できれいに治しましょう。

市販薬使用時の注意点

OTC医薬品を使用する時は、年齢に応じたランクのステロイド外用剤を選び、定められた用法・用量を守りましょう。症状の出ている範囲が手のひら2~3枚分を超える時は、セルフメディケーションの範囲を超えていることも考えられます。また、ひどい虫刺されの場合は、医療機関での抗ヒスタミン剤やステロイド剤の内服治療が必要になることもあります。自己判断で治そうとせず、皮膚科の医師に相談しましょう。

ステロイド外用剤を定められた用法・容量で5~6日間使用しても、症状がよくならない場合や、悪化している場合は、使用を中止し、医療機関を受診しましょう。

監修

帝京大学医学部皮膚科 名誉教授

渡辺晋一先生

1952年生まれ、山梨県出身。アトピー性皮膚炎治療・皮膚真菌症研究のスペシャリスト。その他湿疹・皮膚炎群や感染症、膠原病、良性・悪性腫瘍などにも詳しい。東京大学医学部卒業後、同大皮膚科医局長などを務め、85年より米国ハーバード大マサチューセッツ総合病院皮膚科へ留学。98年、帝京大学医学部皮膚科主任教授。2017年、帝京大学名誉教授。帝京大学医真菌研究センター特任教授。2019年、『学会では教えてくれない アトピー性皮膚炎の正しい治療法(日本医事新報社)』、2022年『間違いだらけのアトピー性皮膚炎診療(文光社)』を執筆。

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