教えて薬剤師さん

皮膚トラブル・疾患の最新事情 掲載日:2010年03月26日

皮膚疾患の中でも多いとされる湿疹・皮膚炎。適切な治療を行えば症状は改善されるものの、ステロイド外用剤に対する誤解や間違った使用方法によって、充分な治療効果が得られないケースも多いとか。今回は、帝京大学医学部付皮膚科で主任教授を務められる渡辺 晋一先生と対談を実施。診療現場での具体的なお話を交えながら、湿疹・皮膚炎をはじめとする皮膚疾患の診療について最新のお話を伺いました。

診療現場で遭遇する皮膚トラブルにはどんなものが?
渡辺 晋一(わたなべしんいち)帝京大学医学部皮膚科主任教授、同大学医真菌研究センター教授。1952年生まれ。東京大学医学部卒業。専門はレーザー治療、皮膚真菌症。門田:まず、渡辺先生のご専門についてお聞かせ下さい。

渡辺:当院(帝京大学医学部付属病院)はあらゆる皮膚疾患に幅広く対応していますが、私自身は水虫などの皮膚真菌症、そしてシミやあざに対するレーザー治療などを専門としています。その関係で、ここ数年はJICAからの依頼を受け、医学教育プロジェクトの一環としてタイの首都バンコクでレーザー治療など美容皮膚科の講義も行っています。

門田:来院される患者さんには、どのような方が多いですか?

渡辺:当院皮膚科では一般外来の他に、レーザー治療などを行う特殊外来を設けています。そのため、美容目的で来院される方が多いですね。ほかには、大学病院ですので皮膚疾患でも重症の方、また自己判断で誤った薬選びをした結果、悪化させてしまったり、なかなか治らない方などが来院されます。

門田:悪化させてしまったり、なかなか治らない方とは具体的にはどのような状況ですか?

渡辺:例を挙げると、とびひと湿疹をとり違えて症状がひどくなったケースなどです。とびひと湿疹では治療法が異なりますよね。とびひなら抗生剤、湿疹にはステロイド外用剤を用いるのが原則です。ところが、とびひを湿疹と思い込んでしまって、とびひにステロイド外用剤を用い、その結果、症状がひどくなったり、「なかなか治らない」と言って当院を受診される患者さんがいらっしゃいます。

門田:誤った判断のせいで、ステロイド外用剤が不適切に使用されるケースもあるということですね。

渡辺:そうです。私の専門である水虫を例にとっても、水虫には抗真菌剤を使用するのが基本ですが、湿疹と勘違いしてステロイド外用剤を用い、症状を悪化させてしまうケースがよく見受けられます。さらに問題なのは、患者さんがそれを「ステロイド外用剤のせいで症状がひどくなった」と誤解してしまう点です。

門田:なるほど。不適切な使用が原因で、ステロイド外用剤への誤解を招いてしまうのですね。薬局では、湿疹・皮膚炎にステロイド外用剤を用いることを敬遠される方もいらっしゃいますが、大学病院ではどのような状況でしょうか。
医師が語る「ステロイド外用剤とはこんな薬」
ステロイドは正しく使えば良い薬なのに、誤解が多くもったいないですね。渡辺:患者さんの中には、頑としてステロイド外用剤を用いた治療を拒絶される方がいらっしゃいます。患者さんにはステロイド外用剤を使用する目的や使用方法、メリット・デメリットなど詳しく説明をしますが、それでも使いたくないという患者さんはいらっしゃいますね。

門田:ステロイド外用剤を拒絶される患者さんは、何かしらの不安や疑問があるのだと思われます。そういった患者さんは、ステロイド外用剤についてどんな質問をされますか?

渡辺:多いのは、「ステロイド外用剤を使うと皮膚が黒くなるのですか?」という質問ですね。これは誤解です。色が黒くなるというのは色素沈着のことですが、これはステロイド外用剤によるものではなく、湿疹・皮膚炎を掻き壊した結果、生じるものなのです。

門田:そのような誤解に対してはどう対応されているのですか?

渡辺:湿疹・皮膚炎で皮膚が黒くなるのを防ぐためには、ステロイド外用剤を使用する必要があるということを説明します。湿疹・皮膚炎に伴うかゆみには、初期の段階でステロイド外用剤を使わないとかゆみが治まらずに掻き壊し、炎症がひどくなって色素沈着が生じます。私たち医師はこうした説明を行いますが、最終的に判断を下すのは患者さんですから、ぜひステロイド外用剤については正しい理解をして頂きたいものです。

門田:上手に使えば症状が良くなる薬を使用しないというのはもったいないですね。

渡辺:ステロイド自体は、皮膚科だけでなく内科でも使用されています。たとえば膠原病という疾患群がありますが、治療には副腎皮質ステロイドホルモン剤を内服するのが原則です。喘息でもステロイドを吸入します。ところがいざ皮膚科でステロイド外用剤となると、副作用を心配して使用を敬遠される患者さんが多いという状況なのです。

門田:患者さんの側ではいまだに誤解があるようですが、皮膚科診療の世界において、ステロイド外用剤とはどのような位置づけなのでしょうか?

渡辺:ステロイド外用剤というのは「古くて、かつもっとも新しい」薬です。どういうことかと言いますと、ステロイド外用剤は昔からずっと長い間治療に用いられて来て、その有効性と安全性は実証済みです。そしていまなお治療の最前線で使われている。そういう意味で、世界のゴールドスタンダードと評しても過言ではない薬なのです。
セルフメディケーションを行う上で重要なポイントは?
門田:ステロイド外用剤は薬局でも購入が出来ますし、最近はセルフメディケーションという考え方も浸透しつつあります。患者さんがみずから OTC医薬品を使用するにあたって注意する点、判断のポイントなどはありますか?

渡辺:大事なことは、処方薬でもOTC医薬品であっても、正しい診断にもとづいて使用されないといけないという点です。私の専門である水虫を例にご説明しましょう。じつは水虫ほど、世間で誤解されている病気はありません。なぜなら、「私は水虫です」と来院された患者さんを診察してみると水虫ではないケースによく遭遇します。こうした患者さんが、薬局に行くとどうなるでしょう?

門田:誤った自己診断をしている患者さんが薬局に行っても、症状にあった薬を購入することは難しいですね。

湿疹・皮膚炎は正しく診断されていて、症状が軽ければOTC医薬品を用いて早めの治療をおすすめします。渡辺:その通りです。「自分は水虫だ」と正しく把握出来ている人が薬局で抗真菌剤を購入すれば、症状は改善されるでしょう。しかし、「自分は水虫だ」と思いこんでいながら、実際には水虫でない場合、抗真菌剤を用いても治りません。水虫は、皮膚科の専門医で直接鏡検法(皮膚の一部を採取し、顕微鏡で真菌の有無を観察する検査法)を行う必要があります。その上で正しい診断が得られれば、抗真菌剤で治療します。その後、再発してしまった場合は薬局でOTC医薬品を購入しても良いと思います。

門田:OTC医薬品の使用にあたっては、薬剤師や登録販売者のアドバイスを受けながら、自分で判断できる知識を持って正しい薬選びができること、わからない場合には医師の診療を受けることが基本ということですね。

渡辺:皮膚科に来院される患者さんの3〜4割は湿疹・皮膚炎の症状です。湿疹・皮膚炎は皮膚疾患の中でもっともありふれたものですので、水虫と同じように正しい診断が得られていて、軽い症状であればOTC医薬品を用いて治療するのも良いでしょう。湿疹・皮膚炎の場合はステロイド外用剤による治療が基本となりますが、正しく使用しないと治療効果は得られないという点を念頭に置く必要があります。

門田:薬局で薬剤師などから充分に使用に関する情報を得る必要がありますね。

渡辺:当院に来院される患者さんを見ていても、誤ったステロイド外用剤の使い方をされている方が多くいらっしゃいます。これまで処方されていたステロイド外用剤について尋ねてみると、通常、1週間で使い切らないと効果が得られないところ、半年かけて使ったという方も。処方薬と違って、セルフメディケーションではこのような医師のチェックは入りません。正しい知識でもって、適切に使用することが絶対条件であるということを充分理解した上で行って下さい。
ステロイド外用剤を正しく使って、キレイに治そう
門田:セルフメディケーションでは、患者さん自身がより積極的にお薬の知識を得る必要があるということですね。それではステロイド外用剤の適切な使用方法について、アドバイスを頂けますでしょうか。

渡辺:使用する量と部位、使用期間、この3つがポイントとなります。まず量についてですが、ステロイド外用剤を使用する場合、とにかく怖々と使うのは禁物です。湿疹・皮膚炎の炎症を抑えるだけの強さがあるものを、適切な量で使用する。これをしっかり理解した上で使用しないといけません。

門田:ステロイド外用剤にはさまざまな強さのランクがあるということも、必要な知識となりますね(「ステロイド外用剤にはどんな種類があるの?」を参照)。

渡辺:次に部位についてですが、ステロイド外用剤は湿疹・皮膚炎などの症状がある部位だけでなく、健康な皮膚からも吸収されてしまいます。そのため、ステロイド外用剤を使用する際は、あくまでも病変部位にだけ使用することを心がけて下さい。毎日のことなので面倒に感じるかもしれませんが、ていねいに、注意を払いながら塗るようにして下さい。

門田:使用期間については、ステロイド外用剤の使用を止めるタイミング、見極めのポイントなどはありますか?

渡辺:ステロイド外用剤は漫然と、ダラダラ使用してはいけません。炎症を抑えるために用いるわけですから、炎症がおさまったら使用を止めるべきです。かゆみが無くなったら症状がひどくなることは基本的にはありません。使用を止めるタイミングとしては、かゆみの有無を見極めのポイントとすると良いでしょう。

門田:炎症がおさまった後の、健康な皮膚に用いてはいけないということですね。

渡辺:そうです。炎症がおさまった後に、再発が心配だからと使用するのも禁物です。もし再発を繰り返すのであれば、原因物質を避けるなどの対策をとることの方が大切です。

門田:これらのことを理解していれば、患者さんも安心してステロイド外用剤を使用することが出来ますね。

渡辺:湿疹・皮膚炎の症状の中でも「痒み」はとくに、QOL(quality of life:生活の質)を下げてしまいます。とくに虫さされによる湿疹・皮膚炎はかゆみが強いので、小さいお子さんでは無意識に掻きむしってしまう恐れもあります。

門田:かゆみ対策として、夜中に掻き壊さないよう、手袋をして寝るという患者さんもいらっしゃるようですね。気づいたら手袋を外して掻いてしまっていた、ということが多いようですが。

渡辺:かゆみは、患者さんの日常生活に大きな支障を来します。もし「かゆくてもガマンできる」という患者さんであれば、掻き壊さずに済むので症状も悪化せず、ステロイド外用剤を使用しなくても治るかもしれません。しかし実際には、かゆみがガマン出来ない方がほとんどなのです。このかゆみを抑えるのにステロイド外用剤が最も有効です。湿疹・皮膚炎の症状であるかゆみを早く取り除いて治療期間を短縮し、掻き壊しによる色素沈着を起こさないためにも、適切な使用方法を守って下さい。

門田:湿疹・皮膚炎などの皮膚疾患を早く、そしてキレイに治すためには、患者さんが薬に関する正しい知識を身につけ、適正に使用することが必要不可欠ですね。
本日はどうもありがとうございました。
<〜対談後に〜>
対談後の写真健康に関するさまざまな情報が氾濫する中、患者さんが正しい知識を身につけ、健康を守ることの重要性をあらためて実感しました。患者さんの中には、医師から処方されたり薬局で購入したお薬について、しっかりと把握されていない方も多いのではないでしょうか。

薬のしおりや添付文書などには必ず目を通し、分からないことや不安な点は薬剤師に質問するなどして、正しく使用するようにしましょう。自分のお薬について把握することが、健康管理の基本となります。

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